【小説】あかるいみらい(5)「手紙が届く」

「手紙が届く」
母親と下馬へ出かけてから、二週間ほど経った。桜が咲き始めていた。ある日、アパートへ帰ってきてポストを開けると、桜の花びらが一枚落ちた。そして、手紙が一通届いていた。封筒の裏には、下馬の住所と、長谷川亜紀、という名前が記されてある。実の父親の姉にあたる人からだった。母親と下馬の家の前にいたときに、聴こえてきた三味線を弾いていた人だ。
未来の祖父にあたる人が、一ヶ月ほど前に亡くなったので、相続の件もあり、一度会いたい、という内容だった。
不思議だと思った。一ヶ月前といえば、未来が父親について知りたい、と思い始めた頃だった。そのころに、その父親の父親、未来には祖父にあたる人が丁度、亡くなっていた。そして、叔母にあたる人は、未来が生まれた家を探していた頃に、未来の行方を知ろうとしていたのだった。先日、未来の母方の祖母に、未来の住所を聞いた、とのことだった。
未来はアパートの窓を開けた。千葉の、松戸の先の郊外にある馬橋という土地に未来は住んでいる。空気はまだひんやりとしていたが、どことなく春のなまあたたかさを含む薄闇が広がっていた。三階の窓からは、低い家並みと、葱畑が広がり、その向こうには、森が横たわっている。その森は、もともと産廃処理場を埋め立てて作った森だった。だが、産廃処理場が出来る前は、やはり深い大きな森が、そこには広がっていたとのことだった。
薄闇の中に、その森が黒々と広がっているのを、未来は見つめていた。