蟹座
【断片101209】
蟹は古代の光を浴びてその甲羅のおうとつを浮かび上がらせた
生贄にささげられたゆでられた蟹
そこに存在する赤い身体
蟹はゆっくりと歩きあぶくをはき出した
【断片10120902】
過去はもう存在しない
その存在しない場所に蟹が存在する
夕陽に照らされ薄い笑みをうかべ
だから私は孤独ではないと思う
【断片10120903】
その時静かに蟹の群れは大移動を始めていた
夜の窓には知らない人の影が映る
灯りが寂しいので闇の方がいい
真黒に裂けた口を空ける河口に向かって突出た三角形の先端に立ち
水の流れる音に身体をさらす
蟹の群れが橋の下を通り過ぎる
ちぐはぐなベクトルが交差する時間